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2014
12.05

コバ青ss

Category: 未分類
寮の玄関から曲がって右の廊下の突き当たり。
そこには2台の紙コップ式自販機と黒い皮のベンチが二脚設置されており、いわゆる休憩場として寮のみんなに利用されていた。

バトルの後の男たちが雑談をしたり、昼間には暇な女たちが集まって簡単な井戸端会議をしている光景がよく見られる。

今日はそのどちらでもなく、ちんまりとしたひとつの影がベンチの上に立ち、自販機の1番上のボタンを押そうとしてうんと背伸びをしているところだった。

「ぅ…ん…!う…だめだぁ…全然届かないよ…」
目一杯伸ばした手をするりと下ろし、エスメラはため息をついた。
ほんの2センチほど、どんなに伸びても届かない。
せめてエメラルも一緒にいたらな、届いたかな。なんて思う。

エメラルがいつもみたいに女性陣からお下がりでもらってきた雑誌に載っていた。
今は清楚で大人っぽいのが流行りなんだって。
エスメラは考えた。
考えて、身近な大人っぽさはブラックのコーヒーだったのだ。
マリアやルージュに頼めばコーヒーくらい淹れてくれたかもしれない。
けれど同時に聞かれたかもしれない。
「どうしてブラックのコーヒーを飲むの?」って。
だってマリアたちはエスメラより先にその雑誌を読んでいるのだ。
そしたら答えなければいけない。
好きな人がいるんだって。

エスメラにはそんなことできなかった。
なぜならエスメラの好きな人はずっと年上で大人っぽくて、そして

「エスメラ、こんなとこで何してるんだよ。1人?」

びくん!と肩が跳ね上がって、冷や汗が吹き出した。

振り向けば、そこには手をひらひら振るコバルトの姿。
デニム地のキャスケットの中に長い髪をまとめたのかいつもよりさっぱりとした出で立ち。
エスメラには何の動物だか分からない生き物の皮のジャケットを羽織っている。
精悍な顔立ちに女性的な柔らかい笑みを浮かべたコバルトは、エスメラの目線に合わせて少しかがみこんだ。

「どうした。どれが飲みたいの?」
「えっと…あの、あれ」

見つめられて、誤魔化すことも嘘を付くこともできなかった。
エスメラは指差した。伸びて伸びて届かなかった1番上のボタンを。
これかー。そう言ってコバルトはベージュのチノパンの尻から黒い長財布を出すと、エスメラが小さなグーの中に握りしめた暖かい百円玉を受け取らずに自分の冷たい硬貨を自販機に落とし込んだ。

お礼を!
お礼を言わなきゃいけない。
奢ってもらっちゃった。

エスメラは口をパクパクさせる。
ドキドキしてしまう。
「ありがとう、コバさん!」
言えた。
ちょっと声が上ずった。
エメラルがいてくれたら、こんなにドキドキしないのに。
平気な顔をしていられるのに。
コバルトの方を向けず自販機とにらめっこ。
コバルトはそんなエスメラの心境なんて知る良しもなく、カップの中に液体が注がれるのを待っている。

「あの、こ、ここ、コバさんはさ。好きなタイプ、とかって、ある?」
「え?」
「あっ、あ、の、えっとぉ」
沈黙を破ろうとしただけなのに!
高鳴る胸と、落ち着かない気持ちと、いろんなものが先走った!
「あー、うーんそうだな」
エスメラが顔を真っ赤にして俯くのも知らず、コバルトは顎に手を当て微かに遠くを見る。
「清楚で大人っぽい子は、好きだな」
「!!!」
心臓が大きく跳ねた。
と、同時に自販機の扉が自動で開く。
「ありがと、コバさん!」
そうしてエスメラは限界が近い自分の心臓と、あったかい飲み物の入ったカップを大急ぎで手に取ると逃げるようにして駆け出した。
「こら!走るなよ転ぶぞ!」
後ろから少し怒られたけど気にしない!
これって一歩前進なのかな!?エメラルに聞いて欲しい!


後に残されたコバルトは自分の分の硬貨を自販機に入れ、ベンチに腰掛けた。皮がきゅっと音を立てる。

そうだ、あの人を表すなら清楚で大人っぽい人だ。
ああそうだ、自分はそんなあの人が好きだ。

出来上がったコーヒーを啜る。
「苦いな…」

けれどきっとエスメラのコーヒーの方が、ずっと、苦い。
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